テトラポットの政

ひとりごと、ことばの新陳代謝

終りのうた

満開のさくらが土手に咲いている

晴天のすこし肌寒い日

突然つよい風が吹く

目も開けられないくらいの北風。

 

目を開けると花びらが一面に舞っている

それが土に触れる前にまた

浮かぶような風が、今度は南から、優しく吹く

 

いくら風が吹いたって枝から花は奪えない

風は手加減しているわけでなく

優しいのだ。

 

彼の役目はその春を終わりにすること。

それでも

花びらを傷つけないように軽快に、

そう装った慎重さでことを運ぶ

 

木の下ではシートが飛ばないよう押さえながら、

花びらの入った日本酒を人々は飲む

嬉しそうに、酔っぱらいながら

私には気付いていない

 

私は別れを悲しんでいるのです。

少し強めに言ってみる

こんなにつらくて泣いているのに。

散り際のさくらが美しいと言ったのは誰だ

 

 でも、大丈夫だよ、綺麗だから。

と言い残して風は止んだ

彼のくれた凪、

私が覚悟を決める時間 

 

私は両手の花をおろさないように

それで人々が悲しまないように

精一杯太陽の方へそれを掲げた

そして目を閉じる

 

春の風が遠くの方でほかの花を揺らす

音の片鱗をつかもうとして、やめる

 

せめて夏の風のにおいを、この朗らかな日のもとで

感じようとする

 

 

私は彼に恋をしていました。